ILLUSTRATION CONTEST 2024
コラム
世界中で楽しまれているポケモンカードゲーム
世界76のエリアで遊ばれてきたポケモンカードゲーム。なぜ世界中の人々に愛されているのか?
ポケモンカードゲームの魅力を振り返りながら、一枚のカードがどれだけ多くの人々を魅了しているかを探っていきます。前半はポケモンカードゲームの開発をディレクションしている長島敦に、後半はアジア以外の地域でのポケモンカードゲーム事業を統括するThe Pokémon Company Internationalのバリー サムズから話を聞きました。
長島 敦
株式会社クリーチャーズ
ポケモンカード開発本部 カード開発部 ゲームディレクター
ポケモンカードゲームのプレイ環境のデザインやゲームロジックの設計など、ゲーム仕様全般や商品のディレクションを手がける。
バリー サムズ
The Pokémon Company International
カード事業部 バイスプレジデント
アジア以外の地域におけるポケモンカードゲームの事業戦略と商品開発責任者。
株式会社ポケモン、株式会社ゲームフリーク、株式会社クリーチャーズとともに海外におけるポケモンカードの商品企画、マーケティング、流通を統括している。
The Pokémon Company Internationalとは
株式会社ポケモンの海外子会社である The Pokémon Company International は、アジア地域以外においてブランド管理、ライセンス供与、マーケティング、ポケモンカードゲーム、テレビアニメシリーズ、その他商品やサービス、および管轄地域におけるポケモンの公式ウェブサイトを担当している。
開発の視点から振り返るポケモンカードゲームの25年間
―――ポケモンカードゲームは1996年に発売され、2021年で25周年を迎えました。どのような25年間だったのでしょうか。
長島:25年もの長い間、皆様にポケモンカードゲームでずっと遊んでいただけて、本当にありがたいことだなと思っています。奇跡的だ、とすら感じています。自分はポケモンカードゲームのゲームディレクターとして、25年間すべての期間に携わってきたわけではありません。株式会社ポケモン代表取締役社長の石原恒和さんをはじめ、発売当時のクリエイターの方々が創ったポケモンカードゲームの根幹となる部分を大事にし、基本的なルールは変えずに、常に新しい刺激を加えていく挑戦を続けてきました。その積み重ねもあって、ファンの皆様には、いまだに対戦やコレクションを続けていただけています。世界中のファンの方々が遊んでいる様子を想像すると、とても感慨深いです。
―――奇跡の25年間であったと?
長島:そうです。日本で開発されたトレーディングカードゲームが、1999年にアメリカ合衆国で発売され、今では世界中で遊ばれています。「こんなに凄いことが現実に起きるんだ!」という思いがあり、まさに奇跡的としか言いようがありません。
―――ポケモンカードゲームが25年間愛され続けてきた理由として、ポケモンカードゲームにはどのような魅力や良さがあると思いますか?
長島:まず言えるのは、携帯型ゲームから始まった「ポケモン」というコンテンツが愛され続けていることが、とても大きいです。そして、ポケモンカードゲームの人気は、基本的なルールを変えていないことが、鍵になっています。変えていないからこそ、ポケモンカードゲームからいったん離れてしまった方々も、戻ったらすぐに遊ぶことができるのです。
そして、25年間が過ぎた今では、親と子どもの二世代で一緒に遊べるゲームに発展しています。昔遊んだことのあるお父さんやお母さんは子どもにルールを説明できますし、子どもはポケモンの最新情報を親に伝えることができます。このように世代を超えた幅の広い遊びに成長させることができました。
―――親と子どもの二世代で遊べるゲームに発展したのは、素敵なことですね。
長島:ポケモンカードゲームは、リアルなカードを使うアナログゲームです。目の前にいる人と会話を交わしながら対戦をする遊びです。対戦の中でプレイヤー同士はコミュニケーションを重ね、カードへの愛着を深めていきます。この「コミュニケーション」と「愛着」のふたつが、ポケモンカードゲームにとって最も大切な要素だと思います。
―――普段どのようなことを心がけてポケモンカードゲームの開発に取り組んでいますか。
長島:ポケモンカードゲームには、豊富な楽しみ方を用意しています。パックを開ける。イラストを鑑賞する。カードを集める。デッキを作る。デッキを使って対戦をする。つまり、あらゆる段階でワクワクできる要素を盛り込んでいるのです。ファンの方々に喜んでいただけることを常に意識しています。
このように、人それぞれの楽しみ方を尊重しながら、ポケモンカードゲームの開発をしています。ですから「絶対に対戦してね!」と言うつもりはなく、ファンの方々が好みの楽しみ方を見つけて、親しんでほしいです。
―――ポケモンカードゲームは、世界中のプレイヤーに遊ばれています。なぜ海外の方々も夢中になって遊ぶのか。その理由を分析してください。
長島:今お伝えしたように、ポケモンカードゲームの楽しみ方は、非常に豊富で練り上げられています。その楽しみ方が普遍的なものとして成立しているからこそ、海外のファンの方々にも受け入れられているのだと思っています。
また、ローカライズが巧みであることも、大きな理由として挙げられます。日本で開発された商品を、その国々の文化の違いに応じて、最適化して、お届けする手法を各国の現地スタッフと培ってきました。
―――世界で遊ばれるゲームとして、開発の際に常に意識していることをお聞かせください。
長島:開発の根本にあるのは、「ポケモンカードゲームは、世界中の誰とでもつながれるコミュニケーションツールである」という意識です。ポケモンカードゲームのカードは、その国々で使われている言語に翻訳されます。ただし、アレンジはされません。つまり、他言語に翻訳されても、基本となる日本語のカードと同じイラストやワザ、効果などを持っているのです。このように遊び方を厳密に統一することで、異なる言語圏のプレイヤー同士でも対戦が可能になります。ポケモンカードゲームの世界大会では、子どもから大人まで様々な世代のプレイヤーたちが、それぞれの言語版のカードを使って、コミュニケーションを取りながら、対戦をくり広げています。互いに言葉が通じなくても対戦を楽しんでいるプレイヤーの姿を間近でたくさん観てきました。だからこそ、誰とでもつながれるコミュニケーションツールであることは絶対に大事にしたい、と思っています。
―――ゲームディレクターの立場から、ポケモンカードゲームのイラストを振り返ってみて、印象に残っている作品があれば教えてください。
長島:まず思い浮かぶのは、ポケモンカードゲーム XY 拡張パック「ライジングフィスト」です。この作品では、架空のトーナメントを描きました。トーナメントを催すので、舞台やバトルの組み合わせなどの設定を緻密に考えました。
例えばブーバーンのカードの背景では、エレキブルが戦っています。コンビで戦っているイメージです。ワンリキーのカードの背景には開催中のトーナメント表が描かれています。このようにイラストに演出を加えて、架空のトーナメントを表現したのです。
「ブーバーン」イラストレーター:PLANETA
ポケモンカードゲームXY 拡張パック「ライジングフィスト」収録
「ワンリキー」イラストレーター:斉藤コーキ
ポケモンカードゲームXY 拡張パック「ライジングフィスト」収録
ポケモンカードゲームXY 「メガマスターデッキビルドBOX パワースタイル」収録
ポケモンカードゲームXY BREAK プレミアムチャンピオンパック「EX×M×BREAK」収録
次に印象深いのは、ポケモンカードゲーム XY BREAK 拡張パック「青い衝撃」「赤い閃光」です。この作品では、舞台設定を創り込んでイラストに活かしました。ミュウツーがメガミュウツーXとメガミュウツーYにメガシンカする特徴を活かし、時間を軸にして過去と未来それぞれに世界を創り、何らかの衝撃で過去と未来が交わって2匹が出会った、という裏設定を考案しました。拡張パックを開けると、過去の風景を描いたイラストのカードや、近未来の街を描いたカードが入っています。あらかじめ創っておいたバックグラウンドストーリーに沿って、イラストレーターにイラストを描いていただく。そういう試みでした。
「ハリマロン」イラストレーター:水谷恵
ポケモンカードゲームXY 拡張パック「青い衝撃」収録
「ハリマロン」イラストレーター:水谷恵
ポケモンカードゲームXY 拡張パック「赤い閃光」収録
―――ゲームデザインや設定がイラストに影響を与えているのですね。
長島:「新たなワザを開発したので、イラストはこんなふうに描いてほしい」と相談をすることはよくあります。ワザの効果とイラストの表現がつながると、ポケモンカードゲームが持つ「ごっこ遊び」の要素が強化され、ポケモンにそのワザを使わせている臨場感が増します。対戦しながら、思わずワザの名前を叫んでしまうくらいが理想だと思っています。
その好例がポケモンカードゲーム サン&ムーン 拡張パック「タッグボルト」に収録したピカチュウ&ゼクロムGXのワザ「タッグボルトGX」です。TAG TEAMのカードなので、ポケモンの選定と組み合わせを熟考しました。「このポケモンとこのポケモンはTAGを組むだろうか?」「組んだらどのようなワザを使うのだろうか?」というところから発想し、「このワザを使うのはピカチュウ、このワザはゼクロムのもの」というふうに、一枚のカードの中に様々な設定を織り込んでいます。
「ピカチュウ&ゼクロムGX」イラストレーター:有田満弘
ポケモンカードゲーム サン&ムーン 拡張パック「タッグボルト」収録
ポケモンカードゲーム サン&ムーン ハイクラスパック「TAG TEAM GX タッグオールスターズ」収録
―――ワザなどのデータがイラストに影響を及ぼすように、イラストがワザなどに影響を与えることはありますか?
長島:ワザの考案で煮詰まったときは、液晶タブレットに絵を描いてアイデアを膨らませることがあります。また、イラストのクオリティの高さに感銘を受けて、「こんなに素晴らしい絵になるのなら、ワザの開発をもっとがんばらなくては!」と刺激を受けることもあります。
世界に拡がるポケモンカードゲームの魅力
―――次に、クリーチャーズで開発されたカード商品を、北米をはじめとした世界のユーザーに届けているバリーさんに話を聞きます。
ポケモンカードゲームは1999年にアメリカ合衆国で発売されて以降、日本国外での展開が始まりました。現在は何言語に翻訳されているのでしょうか。
バリー:The Pokémon Company International(TPCi)は、アジア以外の地域(北米、南米、欧州、オーストラリア、ニュージーランド)におけるポケモンカードゲームを統括しており、現在6つの言語に翻訳し、60を超えるエリアでポケモンカードを販売しています。
※ポケモンカードゲームは、これまでに13言語に翻訳され、76もの国と地域で遊ばれてきました。
―――これだけ多くのエリアにポケモンカードゲームの遊びが拡がっている理由としては、どのような魅力が支持されているからだとお考えでしょうか? 世界中の人たちにポケモンカードゲームの遊びが拡がっている理由をどのように分析していますか?
バリー:ポケモンカードゲームは、普遍的な魅力を持っています。 多種多様なポケモンたちを描いた見事なカードイラストは、コレクションしたくなる魅力にあふれています。結束が強いファンコミュニティーもあり、ポケモンカードゲームの魅力は国や文化を超えて共鳴しています。 デジタルゲームやアニメが好きなファンも多く、ポケモンカードは深く愛されているゲームであるという確信を胸に、TPCiの社員は関連会社とともに日々頑張っています。 さらに、各国や地域の市場に精通する専任スタッフを現地に配置することでブランドの拡大に貢献しています。
―――海外で特に注目されたイラストやカードがあれば、その理由とともに教えてください。
バリー:ポケモンカードゲームの素晴らしいところは、「ポケモン」を遊び始めた時期により、ファンそれぞれにお気に入りのポケモンや作品があることだと思います。カードへの想いも似ていて、個人それぞれの体験により好みのカードがあるので、注目すべきカードはたくさんあります。最近では2019年8月に発売された“Hidden Fates”の拡張パックや、2021年2月に発売された“Shining Fates”の拡張パックに含まれた 色ちがいポケモンのカードが、ファンの間で多くの話題を呼びました。『Pokémon GO』に出現する“ 色ちがいポケモン”や、Nintendo Switchソフトの『ポケットモンスター ソード・シールド』でまれに出現する “ 色ちがいポケモン”に出会えた時の興奮と同じように楽しまれています。
※“Hidden Fates”…「ハイクラスパック GXウルトラシャイニー」などに相当。
※“Shining Fates”…「ハイクラスパック シャイニースターV」などに相当。
また、ステンドグラス風のスペシャルアートである「ファイヤー&サンダー&フリーザーGX」はこれまでにない雰囲気を持ちます。このように、複数のポケモンに光を当てたサン&ムーンシリーズのTAG TEAMカードに関しては、ファンコミュニティーから多くの反響がありました。
拡張パックではイラスト違いのカードが注目を集めています。最近話題になったのは、2021年3月に発売された“Battle Styles”の拡張パックに収録された、チャオブーの横で眠っているバンギラスをフィーチャーしたスペシャルアートのカードです 。
※“Battle Styles”…「拡張パック 一撃マスター」「拡張パック 連撃マスター」などに相当。
「ファイヤー&サンダー&フリーザーGX」イラストレーター:ヒョーゴノスケ
Pokémon TCG: Sun and Moon プロモカード
(日本語版は『ポケモンカードゲーム サン&ムーン 強化拡張パック「スカイレジェンド」』に収録)
「バンギラスV」イラストレーター:ヒョーゴノスケ
Pokémon TCG: Sword & Shield – Battle Styles 収録
(日本語版は『ポケモンカードゲーム ソード&シールド 拡張パック 「一撃マスター」』に収録)
―――最近のグローバル市場では、どのようにユーザーが増えているのでしょうか?
バリー:ポケモンカードゲームの継続した人気と25周年記念に後押しされ、TPCiのすべての市場で過去に例を見ないレベルの関心を集めています。 その要因には、まず 高品質のカードや拡張が開発され続けていることが挙げられます。次にポケモンカードゲームを制作するクリエイターが、対戦を楽しく遊ぶ環境をとても大切にしていることがあります。背景には、「ポケモン」 が多世代に渡り楽しまれている事実があります。ポケモンと一緒に育った大人が子どもたちと楽しみながらカード遊びを受け継いでいる話を身近にもよく聞きます。
―――各地域での反響の中で、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
バリー:ここ数年の出来事ですぐに思い浮かぶのは、米国トイフェアーで2021年トイ・オブ・ザ・イヤーのゲーム・オブ・ザ・イヤー部門で”Battle Academy”が受賞したことです。さらに、”League Battle Deck”や”Trainer’s Toolkit”など、より高度な遊びができるよう焦点を当てた商品へも注目が高まったこともトピックです。非常に好評な反応を嬉しく思っています。このようなファンからの反応は、ポケモンカードゲームをより良いものにするため、TPCiの社員や関係会社にとってより良い商品を作り続ける動機となっています。
※”League Battle Deck”…強力なポケモンやトレーナーズカードが収録されている構築済みデッキ。
※”Trainer’s Toolkit”…プレイヤーの使用率の高いトレーナーズなどのカードと、拡張パックやマーカー、デッキシールドなどがセットになった商品。
また、多くのファンが現在のポケモンカードゲームを「黄金時代」と呼んでいるのを耳にします。この高い評価は、ポケモンカードゲームのあらゆる側面がうまくかみ合っていることを示してい ます。多様な商品、興味深いテーマ、奥の深いカードロジック、プレミアムカードの特殊加工、そして極めつけは見事なイラスト。それぞれのカードが小さな芸術作品であり、ポケモンカードゲームの人気を裏付ける最も重要な部分だと思います。
最後に〜応募者へのメッセージ
―――最後にお二人から、「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」に応募しようと考えている皆様へメッセージをお願いします。
長島:ポケモンカードゲームの開発では、根幹を大切にしながら、常に進化し続けることに挑戦してきました。今後もこの挑戦を続けたいと思っています。世界中の人々に遊んでもらえるタイミングになった今だからこそ、ポケモンカードゲームをさらに一歩、さらに二歩先へと進化させたいです。
応募される方々には、ポケモンカードゲームに興味がなかった人たちの目も惹きつけるくらいインパクトのあるイラストで、「一緒にポケモンカードゲームを盛り上げて欲しい」と呼びかけたいです。単純に皆さんのパワーが欲しいですね(笑)。
バリー:自分の描いたイラストを世界中の人々に披露するチャンスです。 私は世界中のポケモンコミュニティーの規模の大きさとその情熱に畏敬の念を抱いています。イラストコンテストを米国に拡大できたことで、私たちの知っているポケモンを新しい視点から見ることができるのを楽しみにしています。
構成・文:元宮秀介(ワンナップ) 撮影:山本佳代子