ILLUSTRATION CONTEST 2024
コラム
ポケモンカードゲームのイラスト制作の裏側
「1枚のイラストが出来るまで」(Part 2)
ポケモンexを中心に、3DCGイラストのカードイラストを多く手がけるtakuyoa氏に、「ゲッコウガex」を作例に、3DCGイラストの制作方法やその魅力をお聞きしました。
takuyoa
CGイラストレーター。
2021年よりポケモンカードゲームのイラストを手がける。
「第2回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」で3Dイラスト優秀賞を受賞。
カードイラストでは主にポケモンexのカードを制作し、中国語版ポケモンカードのパッケージ等も担当している。
好きなポケモンはグルトン。
「ゲッコウガex」 Illus. takuyoa
ポケモンカードゲーム スカーレット&バイオレット 「exスタートデッキ 水 ゲッコウガ」収録
ポケモンexとは?
高いHPと、強力なワザや特性を持つ、特別なポケモン。たねポケモン、進化ポケモンの両方ともに登場する。カードのフレームからポケモンが飛び出しているようなイラストが特徴。
「ワナイダーex」 Illus. takuyoa
ポケモンカードゲーム スカーレット&バイオレット 拡張パック「バイオレットex」収録
「ルカリオex」 Illus. 5ban Graphics
ポケモンカードゲーム スカーレット&バイオレット 「スターターセットex ニャオハ&ルカリオex」収録
「ジバコイルex」 Illus. hncl
ポケモンカードゲーム スカーレット&バイオレット 拡張パック「バイオレットex」収録
「ルガルガンex」 Illus. kawayoo
ポケモンカードゲーム スカーレット&バイオレット 強化拡張パック「トリプレットビート」収録
ポケモンのイラストを描くときに心がけていること
――takuyoaさんがポケモンカードゲームのイラストを描くときに心がけていることを教えてください。
takuyoa:カッコよく描くことを心がけています。パッと見た瞬間に誰もが「カッコいい!」と思える、わかりやすいカッコよさをめざしています。
――takuyoaさんは3DCGイラストと2Dイラストの両方を手掛けています。どちらの手法から描き始めたのでしょうか。
takuyoa:最初は2Dイラストを描いていました。2020年に「第2回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」が開催されたときに3DCGイラストの部門が設けられて、それをきっかけに3DCGイラストに挑戦しました。
自分は、以前の職業が3DCGのアニメーターでした。キャラクターの3DCGモデルを動かす仕事です。その時点から自分と3DCG作品の距離は近く、3DCGイラストを手掛けることにハードルは感じていませんでした。そのような経験を活かして、「第2回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」へ応募しました。
「第2回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」で3Dイラスト優秀賞を受賞したゲノセクトのイラスト。
――3DCGイラストを描くにあたって、ハードルは高くなかったのですね。
takuyoa:そうですね。高校時代から2Dイラストは描いていましたし、その後、専門学校の授業で3DCGイラストを制作していました。両方の手法を学んでいたからこそ、3DCGイラストに柔軟に挑戦することができたのだと思います。
――イラストを作成する際に使用されている機材やソフトについて教えてください。
takuyoa:「第2回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」応募時にはBlenderとPhotoshopを使っていました。Blenderは3DCGアニメーションを作成するための統合環境アプリケーションで、無料で利用できます。現在は3DCGイラストを描く際はMayaで、3DCGイラストの仕上げやエフェクト、それに2Dイラストを描く場合はPhotoshopを使っています。
――同じように3DCGイラストを制作できるソフトでも、BlenderとMayaは使い勝手が異なりますか。
takuyoa:けっこう違いますね。
Mayaは機能が充実していますし、Blenderも使いやすく、手軽に始められるのが利点です。これから3DCGイラストを志す人は、Blenderを使ってみるといいかもしれません。
STEP1. 下調べ
――3DCGイラストの具体的な制作についてお伺いしていきます。「下調べ」について、takuyoaさんはどのように行われていますか。
takuyoa:イラストを制作する際にお見せいただける設定画はしっかり読み込みます。そのポケモンの特徴やちょっとした仕草など、設定画に書かれていることは、すべてを理解するように努めます。また、公式サイト「ポケモンカードゲーム トレーナーズウェブサイト」のカード検索を使い、過去のカードを調べて、すでに描かれている構図をチェックします。構図がかぶってしまうことを避けるためです。このように、自分にとって「下調べ」とは、ポケモンへの理解を深めることと、構図を決める作業のことですね。
STEP2. ラフ作成~ラフ監修
――「ラフ作成」はどのように行いますか。takuyoaさんのラフ作成の手法を教えてください。いわゆるラフの段階で、ここまで完成度が高いとは驚きです。
takuyoa:ラフの時点で完成した状態をイメージしやすいのが、3DCGイラストの良いところです。3DCGイラストを描く場合は、できる限り、完成に近いラフを描くように心がけています。
――ポケモンexのイラストは、ポケモンの体の一部やエフェクトがフレームから飛び出しているのが大きな特徴です。「ラフ作成」の際、構図やポージングでどのようなことを心がけているのかを教えてください。
takuyoa:ポケモンの顔はできる限り大きく描き、カードサイズになってもカッコよさと迫力がキープされるように意識しています。次にポケモンのポージングで試行錯誤して、最後はエフェクトに気を配ります。ポージングとエフェクトは、特に“流れ”を意識します。ゲッコウガを例にすると、奥から手前へくり出している腕の動きを、流れるように綺麗に表現しています。舌の流れも、腕の流れに沿うように動きをつけました。水のエフェクトでも、軌道を描くような美しさを表現しています。
――イラストの構図やポケモンのポージングを考えるのは、お好きですか。
takuyoa:自分はラフを平均して2〜3案描きます。最初に基本的なポージングのA案(画像左)を描き、A案を描くことでバリーエーションに富んだB案(画像中央)、C案(画像右)を自由な気分で描けるようになります。B案、C案は、より良い作品を生み出すためにプラスで描くようにしています。
ゲッコウガexではラフが3パターン制作され、検討の結果中央のB案が採用された。
――イラストの監修はクリーチャーズと株式会社ポケモンで行います。具体的にポケモンやポケモンカードらしさを出す上で、印象的だったフィードバックなどがあれば教えてください。
takuyoa:自分は色味に関するフィードバックをいただくことが多いです。カッコよさを追求して、ポケモンをドラマチックな色で照らすのですが、そうするとポケモン本来の色味とかけ離れてしまいがちです。そこが苦労するポイントですね。
STEP3. 清書作成~清書監修
――「清書」はどのように行っていますか。takuyoaさんの清書作成の手法を教えてください。
takuyoa:3DCGで作ったポケモンに、Photoshopを使って2Dでレタッチを行っていきます。3DCGイラストと2Dイラストのハイブリッドですね。3DCGで作れるだけ作って、仕上げに2Dで描くほうが効果的なところだけを描きこんでいきます。
――3DCGのモデルに重ねるように、2Dでエフェクトを描いているのですね。
takuyoa:「第2回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ」に応募したときも、ゲノセクトで賞をいただきました。そのときの作品も、3Dの上から2Dでレタッチを行っていました。
――ポケモンの顔を2Dで仕上げることもあるのだそうですね。
takuyoa:例えば、ピジョットexは3DCGイラストで描いているときに、顔のバランスが変だなあ、と気になってしまいました。そこで2Dでピジョットexの顔を微調整しました。このように、清書には長い時間をかけて、違和感があるものは、そのつど調整しています。
「ピジョットex」 Illus. takuyoa
ポケモンカードゲーム スカーレット&バイオレット 拡張パック「黒炎の支配者」収録
—ポケモンのリアリティを表現するときに工夫していることは?
takuyoa:リアリティは難しい、と常に感じています。ポケモンは自分にとってやはり可愛い存在なので、リアリティを追求しすぎると、別のコンテンツのキャラクターのようになってしまうと感じています。
ブロロロームexは、エンジンをモチーフにしたポケモンなので、体表は金属感を出し、タイヤの部分は岩の硬質さを表現しています。このようなリアリティは、追求のさじ加減ではポケモンの世界観からかけ離れてしまう、と感じています。
「ブロロロームex」 Illus. takuyoa
ポケモンカードゲーム スカーレット&バイオレット 拡張パック「黒炎の支配者」収録
――リアリズムの解像度は、難しい問題ですね。
takuyoa:はい、自分も難しい、と思っているところです。ですので、清書では、ラフとはまた別の注意を払いながら作業をしています。
――「清書」の際、エフェクトや調整といった仕上げは、何を心がけて、どのように描かれていますか。
takuyoa:みずタイプのエフェクトをしっかりと描いたことがなく、試験的に写真素材を配置したりしたのですが、あまりカッコよくならなかったので、自分で描こうと思いました。指先から水が伸びる感じをきちんと描きたいと思い、描いては消してをくり返していたら、めちゃくちゃ時間がかかってしまいました(笑)。水や炎などの自然物は、難しいモチーフですね。
――自然物の難しさというのは、水や雷などの自然物を描く難しさなのでしょうか。それともカッコよさを表現する難しさなのでしょうか。
takuyoa:自然物を描く難しさです。例えば、水や電気は勢いの表現が難しいですし、炎は流動的なものなので描くこと自体が難しいです。写真素材の加工では、なかなか自分好みになりません。自然物では、特に水、炎、電気などを描く際は、「がんばらなくては!」と気構えをもって挑みます。
清書の後にもう一度監修が入り、イラストのディティールやカードの見え方を仕上げていく。
STEP4. 完成!
――清書が終わればイラスト制作は完成になります。イラスト制作のどの工程に面白さを、もしくは難しさを感じていらっしゃるでしょうか。
takuyoa:自分はラフの段階が楽しいです。ラフではポケモンのポージングを考えます。どのポージングが最もカッコよくなるか、とか、これは自分にしか思いつかないだろう、とか、様々なことを考えて作業するのが楽しいです。その結果、自分独自のポージングを描けたら、とてもうれしくなります!
――2Dイラストにはない、3DCGイラストを描く醍醐味はどこにありますか。
takuyoa:自分は絵を描くことより、画作りが好きです。3DCGイラストは、画作りが早く、出力した画を様々に加工できます。一気に完成品に近づけられる面白さを味わえます。
最後に
――「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2024」への応募を考えていらっしゃる皆さんへ、エールをお送りください。
takuyoa:今は無料のソフトウェアにも優れた機能のものがありますので、3DCGイラストにも気軽に挑戦していただきたいです。このコラムを読んでいる方の中には、2Dイラストで応募される方も多いと思いますが、2Dイラストで鍛えた画作りの経験は、3DCGイラストでも活きるかもしれません! ぜひ3DCGイラストでも応募していただけると、うれしく思います。
構成・文:元宮秀介(ワンナップ) 撮影:山本佳代子